ネットネット株とは
ベンジャミン・グラハムが『証券分析』(1934年)や『賢明なる投資家』で紹介した考え方です。流動資産から総負債と優先株を差し引いたものがNCAVで、土地・建物・設備などの固定資産は一切評価しません。時価総額がNCAVを下回っていれば、その株はネットネット株です。グラハムはさらに、NCAVの3分の2以下で買うことを好みました。計算方法はNCAV(正味流動資産価値)とは?で詳しく解説しています。
日本にネットネット株はどれくらいあるのか
銘柄数は株価や決算発表によって毎日変わりますが、日本は長い間、世界のネットネット株リストの中心にあります。ソシエテ・ジェネラルのジェームズ・モンティアが2008年に先進国市場でグラハムのネットネット戦略を検証した際、世界で約175銘柄のネットネット株が見つかり、その半分以上が日本株でした。
日本にネットネット株が多い理由
現金の多いバランスシート
日本企業、特に中小型株の多くは、多額の現金や有価証券を持ち、借入金が少ない傾向があります。よく挙げられる理由は、1990年のバブル崩壊後に信用が収縮し、経営者が手厚い手元資金を持つようになったことです。現金はNCAVに全額算入されるため、保守的な財務と低い株価が重なるとネットネット株になります。
低い株主還元と少ない買収
長年、多くの企業は配当が控えめで自社株買いもあまり行わなかったため、現金が株主に還元されずに積み上がりました。現金を下回る株価の企業に圧力をかける敵対的買収も、日本では歴史的にまれでした。
政策保有株(持ち合い株)
日本企業は伝統的に取引先や銀行の株式を持ち合ってきました。こうした保有株は通常、固定資産の投資有価証券として計上されるため、NCAVでは一切評価されません。そのため、日本のネットネット株は見かけ以上に割安なことがあります。
アナリストがカバーしない小型株の多さ
東京証券取引所には数千社が上場しており、小型株の多くは英語での、あるいはまったくのアナリストカバレッジがありません。海外投資家が見過ごしてきたため、割安な状態が放置されやすいのです。
東証の「資本コストや株価を意識した経営」要請
2023年3月31日、東京証券取引所はプライム市場とスタンダード市場の全上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。企業は自社の収益性と市場評価を分析し、改善に向けた方針を開示し、進捗を投資家に示すよう求められています。東証は、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っていることを、資本コストを上回る収益を上げられていない、あるいは成長性が評価されていないことの一つの目安として示しました。関連資料では、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の企業がROE8%未満かつPBR1倍未満であると指摘されています。この要請は2026年4月に更新されました。
ネットネット投資家にとって重要なのは、日本のネットネット株に対する従来の不満が「現金が株主に戻ってこない」ことだった点です。東証からの圧力やアクティビストの増加により、増配、自社株買い、政策保有株の売却に踏み切る企業が出てきます。こうした動きは株価とNCAVの差を縮めるきっかけになり得ますが、個々の企業が必ず動くとは限りません。
日本のネットネット株に関する研究
グラハムの手法を米国以外で検証した初期の研究の一つが日本を対象にしています。Bildersee、Cheh、Zutshi(1993年)は1975年から1988年の日本株を、NCAVの基準を緩めて分析し、市場調整後で月約1%のリターンを報告しました。モンティアの2008年の研究も、地域別の結果に日本を含めています。
日本のネットネット株を調べるときのポイント
- 開示資料の場所:有価証券報告書は金融庁のEDINET、決算短信は東証のTDnetで公開されています。
- 3月決算が中心:多くの企業は3月末に決算期を迎えるため、5月に本決算が集中し、多くのバランスシートが同じ時期に更新されます。
- 売買単位:日本株は100株単位で取引されるため、最低購入金額は株価の100倍です。
- NCAV以外の隠れた価値:投資有価証券や土地(取得時の簿価のままのことが多い)は流動資産に含まれません。NCAVには算入されませんが、それ以上の価値を生むことがあります。
- 退職給付債務も負債:退職給付に係る負債も実際の負債であり、計算に含める必要があります。
注意すべきリスク
- 何年もNCAVを下回ったまま何も変わらない企業もあります。割安な株は割安なままのこともあります。
- 海外の投資家にとっては、株価だけでなく円相場もリターンを左右します。
- 日本のネットネット株の多くは出来高の少ない小型株で、売買によって株価が動くことがあります。
- 親会社が支配する上場子会社は、少数株主ではなく親会社の利益のために運営されることがあります。
1銘柄に集中するのではなく、多くの銘柄に分散することが大切です。本記事は情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。