ネットネット株の意味
「ネットネット(net-net)」という呼び方は、計算で2回「差し引く(net)」ことに由来します。1回目は流動資産から負債を差し引いてNCAV(正味流動資産価値)を求め、2回目はそのNCAVと株価(時価総額)を比べます。次の条件を満たす銘柄がネットネット株です。
グレアムはさらに厳しい基準を使いました。いわゆる3分の2ルールで、株価がNCAVの3分の2以下のときにだけ買うというものです。この上乗せの安全域が、清算価値の見積もり誤差を吸収し、利益になる確率を高めてくれます。
計算式と1株あたりNCAVの求め方はNCAV(正味流動資産価値)とは?で詳しく解説しています。
なぜ清算価値を下回る株を買うのか
グレアムの考え方は単純です。流動資産だけを整理して現金化した場合の金額よりも安く株を買えるなら、そこに安全域が生まれます。工場や土地などの固定資産、ブランド、将来の利益は、いわば「おまけ」として無料で手に入ります。事業が何も改善しなくても、支払った金額より下には理論上の床があるわけです。
ネットネット株が見直される経路はいくつかあります。
- 市場の再評価:他の投資家が割安さに気づき、株価が買われる。
- 業績の回復:本業が黒字に戻り、清算価値ではなく利益で評価されるようになる。
- 買収・アクティビスト:ファンドや事業会社がプレミアムを付けて買収する。
- 自主的な還元:資産売却や借入返済を進め、現金を株主に返す。
計算例:この株はネットネット株か
架空の企業で考えてみます(金額の単位は億円)。
- 現金及び預金:50億円
- 売掛金:35億円
- 棚卸資産:40億円
- その他の流動資産:10億円
- 流動資産合計:135億円
- 総負債(流動負債+固定負債):70億円
希薄化後の株式数は1,200万株、株価は350円とします。
- NCAV=135億円−70億円=65億円
- 1株あたりNCAV=65億円÷1,200万株=約542円
- 時価総額=1,200万株×350円=42億円
- P/NCAV=42億円÷65億円=0.65
P/NCAVが0.65ということは、NCAVの65%の値段で取引されているという意味です。1.0を下回っているので、この銘柄はネットネット株です。さらにグレアムの3分の2基準も満たしています。NCAVの3分の2は43.33億円で、時価総額42億円を上回っているからです。1株あたりで見ても、株価350円は1株あたりNCAVの3分の2(約361円)より下にあります。
手元の銘柄で試したい場合は、バランスシートの5項目を入力するだけでP/NCAVと3分の2の買値が出るNCAV計算ツール(英語)が使えます。
なぜネットネット株が存在するのか
理屈のうえでは、清算価値を下回る株価を市場が放置するのはおかしな話です。しかし現実には、次のような力が株価を押し下げます。
- 赤字と資産の目減り:業績が悪化しており、清算にたどり着く前に流動資産が減ってしまうと見られている。
- 注目されていない:小型株・超小型株はアナリストがカバーしておらず、割安が長く放置される。
- 流動性の低さ:出来高が少なく、機関投資家は株価を動かさずにまとまった量を買えない。
- ガバナンス・カントリーリスク:経営陣が株主に価値を還元しないと見られている、あるいは市場の法制度が信用されていない。
- 業種・景気要因:景気循環や構造不況で業界全体が売られ、財務の良い会社まで巻き込まれる。
リスクとバリュートラップ
すべてのネットネット株が「お買い得」なわけではありません。中には、事業そのものが価値を壊し続けているために安いまま、あるいはさらに安くなる「バリュートラップ」もあります。典型的な落とし穴は次のとおりです。
- 現金の流出が止まらない:毎年損失を垂れ流している会社では、NCAVそのものが急速に目減りし、安全域が消えていきます。
- 資産の質が怪しい:売掛金が回収できない、棚卸資産が陳腐化している、「その他の流動資産」の価値が毀損している、といったケースです。
- 簿外債務:オペレーティングリース、退職給付、訴訟、環境対策費用などが、貸借対照表上の負債を超えることがあります。
- 経営陣の保身:高額な役員報酬を取りながら、配当も自社株買いも売却も行わない経営陣。
- 粉飾:市場によっては、報告されている現金や在庫が実在しないこともあります。
グレアムはこのリスクに分散で対応しました。勝ち銘柄が負け銘柄を十分に補えるよう、少なくとも30銘柄のネットネット株を保有することを勧めています。個別銘柄の見極め方はネットネット株の探し方:スクリーナーの使い方にまとめました。
ネットネット株が多い市場(2026年10月22日時点)
ネットネット株は、強気相場や大型株指数の中ではまず見つかりません。偏って存在するのが特徴です。EveryNetNetの集計では、2026年10月22日時点で59か国・2,042銘柄がNCAVを下回っており、このうちグレアムの3分の2基準まで満たす銘柄は977銘柄でした。
- 日本:保守的な財務、政策保有株、低い株主還元を背景に、多くの中小型株がNCAVを下回ってきました。2026年10月22日時点では136銘柄(世界の約7%)です。2023年の東証の要請で企業行動は変わり始めています。日本のネットネット株:なぜ日本に多いのか
- 米国:数は多くありませんが、超小型株、資金が尽きたバイオ企業、景気敏感な産業株を中心に存在します。米国のネットネット株(英語)
- 英国:AIM市場の小型株には、相場の下落局面でNCAVを割り込む銘柄が一定数あります。英国のネットネット株(英語)
- 香港・韓国・台湾:日本以外のアジア市場にもネットネット株はありますが、ガバナンスと流動性には一段の注意が必要です。
国別の銘柄数と各市場で確認すべき点は国別ネットネット株(英語)に、集計のルールはメソドロジー(英語)にまとめています。個別の銘柄名は公開していません。
ネットネット株の探し方
ネットネット株を見つけるには、全上場企業のバランスシートのデータが必要です。これが簡単ではありません。
- 情報が散らばっている:各社が各国の様式で開示するため、世界をカバーしようとすると集めるだけで一苦労です。
- 手作業では終わらない:数千社の流動資産と総負債を手で拾うのは現実的ではありません。
ここを肩代わりするのがスクリーナーです。EveryNetNet(英語)は50か国以上の全上場企業のバランスシートからNCAVを計算し、NCAV以下で取引されている銘柄を毎日更新してリスト化しています。あとは国・業種・P/NCAVで絞り込み、本当の割安株とバリュートラップを見分ける調査に時間を使えます。
具体的な手順はネットネット株の探し方:スクリーナーの使い方で説明しています。
過去のリターンに関する研究
グレアムのネットネット戦略は複数の学術研究で検証され、分散されたネットネット株のポートフォリオは平均的に市場を上回ったと報告されています。
- Oppenheimer(1986年)は、1970年から1983年の米国のネットネット株で年平均29.4%のリターンを報告しました(複利ではなく算術平均)。
- Montier(2008年)は、先進国市場のネットネット株ポートフォリオが年35%超のリターンとなり、均等加重の全銘柄(17%)を上回ったとしています。
- Xiao and Arnold(2008年)は、英国で25年間にわたる超過リターンを確認しています。
過去のリターンが将来を保証するわけではなく、生存者バイアスや売買コストの影響も受けます。詳しくはグレアムのネットネット戦略:過去のリターンと研究(英語)をご覧ください。
3分の2ルールと、より厳しい基準
グレアムはNCAVを下回る銘柄なら何でも買ったわけではなく、追加の安全域を求めました。その基準が「NCAVの3分の2以下でしか払わない」というものです。現代の投資家の中には、売掛金や棚卸資産を割り引いて評価するNNWC(ネットネット運転資本、英語)という、さらに保守的な指標を使う人もいます。
EveryNetNetはNCAVとP/NCAVの両方を表示するため、3分の2の基準を満たす銘柄だけに絞り込むこともできます。
まとめ
ネットネット株とは、次の関係が成り立つ銘柄のことです。
おおまかな清算価値の下限よりも安く買えるため統計的な優位性がありますが、バリュートラップを避けるには分散と個別の調査が欠かせません。グレアムが体系化したこの手法は、EveryNetNetのようなスクリーナーによって、世界中の市場で毎日実践できるものになっています。本記事は情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。
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