グレアムのネットネット株投資法とは?
正のNCAVの3分の2以下という価格基準で候補を選び、1社への確信に頼らず、複数の銘柄に分散する投資法です。グレアムのNCAVは、流動資産からすべての負債と優先株主の請求権を差し引いた値であり、工場、不動産、のれんには価値を付けません。
時価総額がNCAVの1.0倍以下という広いスクリーニング条件と、グレアムの厳しい3分の2基準は異なります。どちらの基準も、実際に回収できる清算代金を保証したり、損失を防いだりするものではありません。資産の質と最新の開示資料の確認が必要です。計算の詳細はNCAV(正味流動資産価値)の計算式と投資戦略を参照してください。
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グレアム自身はどのような成果を報告したのか?
グレアムは、正味流動資産価値を下回る株を分散して購入する方法について、厳しい相場だった1930〜1932年を例外として、30年以上にわたり満足できる成果を得たと報告しています。The Intelligent Investorに記された自身の経験は、おおむね1923〜1957年のものです。これは過去の経験の記録であり、将来の収益率の予測ではありません。
この戦略を実践した投資会社Graham-Newmanには、1950年代にウォーレン・バフェットも勤務していました。バフェットも初期の投資組合で同様の割安株を利用し、1989年のBerkshire Hathaway株主宛て書簡で、この方法を「シケモク」投資と呼びました。捨てられた葉巻にも、最後の一服が残っているかもしれないという比喩です。同じ書簡では、なぜ優れた企業を適正な価格で買う方法を好むようになったのかも説明しています。
過去の研究ではどのような結果が出たのか?
以下の研究では、過去の対象市場と期間で市場を上回るリターンが報告されています。ただし、条件や保有期間は研究ごとに異なり、将来の成果を保証するものではありません。特に日本株のBilderseeらの研究は、厳密な3分の2基準ではなく、正のNCAVを使った緩やかな条件の検証です。
Henry Oppenheimer(1986年)
"Ben Graham's Net Current Asset Values: A Performance Update," Financial Analysts Journal、1986年11–12月号
検証対象:1970〜1983年の米国株を対象に、NCAVの3分の2以下の銘柄を毎年12月31日に購入し、1年間保有する方法を検証しました。各ポートフォリオは18〜89銘柄で構成されていました。
- 年次リターンの算術平均は29.4%で、NYSE-AMEX指数の年平均11.5%を上回りました。
- 複利ベースの年率リターン(幾何平均)は約28.2%でした。
- 成果は一様ではありません。1970年末から1973年末までの年率リターンは0.6%で、指数の4.6%を下回りました。
- 赤字のネットネット株は、黒字のネットネット株をわずかに上回る結果でした。
Bildersee、Cheh、Zutshi(1993年)
"The performance of Japanese common stocks in relation to their net current asset values," Japan and the World Economy、1993年
検証対象:1975〜1988年の日本株を検証しました。グレアムの厳密な基準を満たす企業が少なすぎたため、時価総額に対するNCAVが正である銘柄を対象とする、緩やかな条件を採用しています。厳密な3分の2基準を検証した証拠ではありません。
- ポートフォリオの市場調整後リターンは月約1%で、市場を年約13%上回りました。
- 米国以外でこの考え方を検証した初期の研究の一つです。
James Montier(2008年)
"Graham's Net-Nets: Outdated or Outstanding?"、Société Générale、2008年9月。 Montier著 Value Investing: Tools and Techniques for Intelligent Investment(Wiley、2009年)に再録
検証対象:1985〜2007年の世界の先進国株から、NCAVの3分の2未満で取引される銘柄群を抽出し、米ドル建てで検証しました。
- 年率リターンは35%超で、比較対象の株式群を均等加重した場合の年率17%を上回りました。
- 個別のネットネット株の約5%は1年間で90%以上下落しました。市場全体の株式では約2%でした。
- それでも、ポートフォリオが損失となった年は対象期間中に3回で、市場の6回より少ない結果でした。
- 執筆時点でMontierが見つけたネットネット株は世界で約175銘柄あり、その半数以上が日本にありました。
Xiao、Arnold(2008年)
"Testing Benjamin Graham's Net Current Asset Value Strategy in London"
検証対象:1981〜2005年のロンドン証券取引所の株式のうち、NCAVが時価総額の1.5倍以上の銘柄を検証しました。これはグレアムの3分の2基準と同じ条件です。
- 5年間の保有期間では、統計的に有意な正の市場調整後リターンが得られ、年率で最大19.7%でした。
- 小型株効果を考慮しても超過リターンは残り、CAPMでもFama-Frenchの3ファクターモデルでも説明されませんでした。
Carlisle、Mohanty、Oxman(2010年)
"Ben Graham's Net Nets: Seventy-Five Years Old and Outperforming"
検証対象:Oppenheimerの米国株の検証を、同じNCAVの3分の2基準で1983〜2008年の期間に更新した研究です。
- 月次リターンの算術平均は2.55%で、対象期間中のNYSE-AMEX指数と小型株指数の両方を上回りました。
Tobias Carlisleは、Deep Value(Wiley、2014年)と、Wesley Grayとの共著Quantitative Value(Wiley、2012年)でも、ネットネット株について詳しく論じています。
研究のリターンをそのまま期待してよいのか?
いいえ。研究の高い数値を、そのまま自分が得られるリターンと考えるべきではありません。平均の計算方法、売買コスト、流動性、長期の不振、個別企業の失敗を考慮する必要があります。
- 算術平均と複利の違い。複数の研究が示す算術平均リターンは、実際の資産の複利成長率より高くなります。Oppenheimerの年平均29.4%に対し、複利の年率は28.2%でした。値動きが大きいほど、この差も大きくなります。
- 超小型株の流動性と運用規模。ネットネット株の多くは超小型株です。売値と買値のスプレッド、手数料、税金によって実際のリターンは減少し、この方法で運用できる資金量にも限界があります。
- 長期の不振。全体では好成績だったOppenheimerのサンプルでも、ネットネット株が市場を3年連続で下回る期間がありました。
- 個別企業の失敗。Montierの研究では、個別のネットネット株が大幅に下落する割合は一般の株式より高くなっていました。報告された成果は、多数の銘柄を保有した結果です。
- 過去は約束ではない。これらは過去のデータを使った検証です。今後も同じリターンが得られるという保証ではありません。
実際にはどうやって候補を調べるのか?
まずスクリーナーで調査リストを作り、最新の開示資料でNCAVとリスクを確認します。EveryNetNetのスクリーナーは候補を絞る入口です。表示された銘柄をそのまま購入対象とせず、スクリーナーの使い方に沿って調査を進めてください。
- 最新の決算書や開示資料から流動資産、負債、優先株主の請求権を確認し、時価総額と同じ通貨・単位で比較します。NCAVの計算式で項目を確認できます。グレアムの歴史的な定義には優先株主の請求権の控除が含まれますが、EveryNetNetでの計算方法は別途EveryNetNet Methodology (English)で確認してください。
- NCAVがゼロ以下なら、P/NCAVを割安さの根拠にしません。必要な入力値が欠けている場合も、欠損をゼロとみなさず、開示資料で確認してから分類します。価格基準の意味はネットネット株とは?でも解説しています。
- 売掛金の回収可能性、在庫の換金性、現金の流出、増資などによる希薄化を調べます。見かけの割安さが続くバリュートラップでは、事業の悪化が資産価値を減らすおそれがあります。
- 1社に依存せず分散を考え、新しい開示が出るたびに資産の質と価格条件を見直します。過去の研究に共通するのは、厳格な価格基準、分散した銘柄群、定期的な組み替えであり、単一銘柄の確実な値上がりではありません。