ネットネット株はいつ売ればいいですか?
売却の判断は、買う前に決めた3つの基準で行います。株価が最新の1株あたり正味流動資産価値(NCAV)に達したとき、財務の悪化で投資の前提が崩れたとき、利益目標に届かないまま保有期限を迎えたときです。分散したポートフォリオ全体で同じ基準を使い、銘柄ごとにその場で判断を変えないようにします。これは学習のための考え方であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。
グレアムは利益目標と2〜3年の保有期限を決めた
グレアムは50〜100%の利益目標と、最長2〜3年の保有期限を示しました。
ベンジャミン・グレアムは1976年の Financial Analysts Journal のインタビュー「A Conversation with Benjamin Graham」(1976年9〜10月号)で、売却方針をこう述べています。
"set a reasonable profit objective on each purchase--say 50 to 100 per cent--and a maximum holding period for this objective to be realized--say, two to three years. Purchases not realizing the gain objective at the end of the holding period should be sold out at the market."
つまり「1銘柄ごとに50〜100%という現実的な利益目標を決め、それを実現するための保有期限を2〜3年と定める。期限までに目標に届かなかった銘柄は、そのときの市場価格で売る」ということです。 この利益目標と保有期限の方針は、本ガイドのNCAVを基準とする売却判断とは区別します。インタビューで、株価が1株あたりNCAVに達したら必ず売ると述べたわけではありません。
同じインタビューでグレアムは、ネットネット投資そのものについても語っています。固定資産には一切価値を認めず、負債を全額差し引いた運転資本価値を下回る株だけを買う手法で、グレアム・ニューマン社での30年あまりの運用で「年平均20%ほどを得たはずだ」と述べました。また1976年1月時点で、S&Pストックガイドに該当銘柄が300以上(全体の約10%)あったとも語っています。候補の数は相場によって大きく増減するということです。
このルールで重要なのは数字そのものより、利益目標を買う前に決めること、そして相場が動こうと動くまいと期限の時計は進む、という2点です。
過去の検証では1年と5年の保有期間が使われた
オッペンハイマーは1年保有のポートフォリオを、シャオ&アーノルドは5年間の保有期間を検証しました。保有期間の選択も、それぞれの結果を理解するための前提です。
- オッペンハイマー(1986年)は、株価が1株あたりNCAVの3分の2以下の米国株を毎年12月31日に買って1年保有する運用を1970年から1983年まで繰り返し、年平均29.4%(NYSE-AMEX指数は11.5%)、幾何平均では約28.2%という結果を得ました。
- モンティア(2008年)は、1985年から2007年まで世界の銘柄を対象としたポートフォリオで検証し、年35%超(均等加重の市場全体は17%)としています。
- シャオ&アーノルド(2008年)は、ロンドン市場で5年間の保有期間を前提に検証し、それでも市場調整後で年最大19.7%の超過リターンを確認しました。
これらは過去のポートフォリオ検証であり、最適な保有期間や将来の利益を保証するものではありません。年1回の見直しやリバランスと、すべての銘柄を1年後に必ず売るルールは別です。検証の詳細と注意点は、ネットネット戦略の過去のリターンと検証(英語)をご覧ください。基本については、ネットネット株とはをご覧ください。
株価が1株あたりNCAVに達したら売却を判断する
株価が最新の1株あたりNCAVに達し、割安さがなくなったら売却を判断します。買った当時の数字ではなく、最新のバランスシートから1株あたりNCAVを計算し直すことが出発点です。P/NCAV = 株価 ÷ 1株あたりNCAVであり、時価総額をNCAV総額で割った値と同じです。P/NCAV = 1では正味流動資産に対する割引がゼロになります。ただし、当サイトのスクリーニングにはP/NCAV ≤ 1の銘柄が含まれます。
1株あたりNCAVが変わらない場合、その3分の2で買って1株あたりNCAVで売ると、コスト控除前で50%の株価上昇益になります。これはグレアムが述べた利益目標の下限を示す計算例であり、その目標の歴史的な由来を説明するものではありません。利益が出れば1株あたりNCAVが増える可能性はありますが、必ず増えるとは限りません。最新のバランスシートから計算し直す必要があります。
財務悪化で投資の前提が崩れたら売却を判断する
財務の悪化によって投資の前提が崩れたら、目標価格に届いていなくても売却を判断します。単なる株価下落と、資産の裏付けを損なう次の変化は区別します。
- 現金の流出。営業赤字は、投資の根拠そのものである流動資産を削ります。株価が動かなくても、1年の赤字で割安さが消えることがあります。
- 評価減。回収できない売掛金や評価減された在庫は、NCAVを直接減らします。評価減が続く会社は、売掛金を75%、棚卸資産を50%に割り引くNNWC(ネットネット運転資本)で厳しく見るほうが実態に近くなります。
- 負債の増加。負債が増えても、同額の現金などの流動資産が増えればNCAVは変わりません。流動資産の増加を伴わない負債増加や、借りた現金の支出がNCAVを減らします。
- 希薄化。1株あたりNCAVを下回る価格での増資は、あなたの持つ割安さを新しい株主に分け渡す行為です。 企業を確認する一般的な手順は、スクリーナーの使い方をご覧ください。
決めた保有期限までに利益目標に届かなければ売る
買う前に決めた保有期限までに利益目標に届かなければ、売却します。グレアムが示した最長2〜3年は、その一例です。統計的に割安な会社が何年も割安なままのことはあるため、判断に迷ってから期限を延ばすのではなく、事前に決めておきます。定期的な見直しやリバランスの頻度が、そのまま売却を義務づける保有期限になるわけではありません。
期限の役割は、判断がいちばん難しい局面から判断を取り除くことです。期限がないと、動かないポジションは静かに「永久保有」になります。 引用の「sold out at the market」は、そのときの市場価格で売却するという意味であり、価格を指定しない成行注文を出す指示ではありません。
買う前に目標価格・期限・早期売却の条件を記録する
買う前に、目標価格(最新の1株あたりNCAV、または購入価格×(1+設定した利益率))、保有期限の日付、投資の前提を崩して早期売却につながる財務シグナルを記録します。株価が下がってから考えるより、一貫した判断をしやすくなります。ただし、このルールが損失の上限を保証するわけではありません。
分散は1銘柄への依存を減らしますが、損失をなくすものではありません。グレアムは個別の賭けではなくグループとして保有し、最低30銘柄程度の分散を勧めました。日本株の事情については日本のネットネット株もあわせてご覧ください。分散したポートフォリオでも、大きな損失が生じることはあります。
売却時はスプレッド・手数料・流動性を織り込む
売却を計画するときは、スプレッド・手数料・流動性を織り込みます。ネットネット株の多くは時価総額が小さく、売買スプレッドが広く、出来高も薄い銘柄です。数日かけて作ったポジションの解消に数日かかり、その間に自分の注文で株価が下がることもあります。売買手数料、為替コスト、適用される税金は実現リターンを減らします。売買の頻度が増えればコストも増え得ますが、年1回の見直しだけで全銘柄の入れ替えが必要になるわけではありません。
とはいえ、これはルールを捨てる理由にはなりません。自分が売り切れる大きさに抑え、指値を使い、数日に分けて約定させるという運用上の工夫の話です。